研究活動

子ども好適空間研究概要

保育環境・先行事例の分析

保育現場における危険事例とよりよい保育環境に関わるアンケート調査

  • 研究代表者:林陽子
  • 研究分担者:櫻井貴大 野田美樹 横田典子

現代社会においては、子どもの死亡や事故の原因は不慮の事故が多く、家庭や身近な場所で発生しています。また、保育所、こども園、幼稚園等の保育現場においては、保育者不足の恒常化があり、人手不足や多忙さから重篤な事故の発生に繋がる危険性があります。
本調査は、保育園、こども園、幼稚園等の危険事例のアンケートやインタビューを実施し、保育現場における「ヒヤリ、ハット」の事例を収集し、事故を防止するために役立つための保育に生きる具体的なチェックリストを作成するために進めています。
また、アンケートから、保育現場における「ヒヤリ、ハット」の現状を明らかにし、データベース化し、保育者が考えるよりよい保育環境としての”子どもにとって居心地が好く夢中になれる空間”の分析から、幼児期ならではの環境デザインの必要性も見えてくると予想しています。子どもの発達に必要な経験を踏まえた安全で安心できる環境づくりについて考えるための資料となることも目的としています。
最終的には、子どもにとって安全で安心できる空間が、便利さや簡易さだけを求めたり、子どもの経験の機会を減少させたりするのではなく、子どもが安全で安心して活動し、”子どもにとって居心地が好く夢中になれる空間”であるための環境デザインについて示していきたいと考えています。

定点観測による保育者の空間デザイン意識の研究

  • 研究代表者:町田由徳
  • 研究分担者:黒野伸子

岡崎女子短期大学には「嫩幼稚園」「第一早蕨幼稚園」「第二早蕨幼稚園」の3つの付属幼稚園があります。「嫩幼稚園」は岡崎市の中では中心市街地に位置する、小さな敷地の都市型幼稚園で、園舎の構造はRC(鉄筋コンクリート)造3階建です。
一方「第一早蕨幼稚園」「第二早蕨幼稚園」は広い敷地を持つ郊外型の幼稚園で、「第一早蕨幼稚園」はRC造2階建、「第二早蕨幼稚園」は木造1階建の園舎と、三つの園がそれぞれ異なる個性の環境、空間を有しており、各園では担任の先生方が保育室内の家具類の配置や、壁の掲示を工夫し、充実した教育を展開しています。
そこで本研究では3つの園の全ての保育室内を季節毎に撮影し、付属園の先生方が持っている環境構成のノウハウを画像としてアーカイブします。撮影は広角レンズを使って室内を複数方向から撮影する他、360度全天球型カメラを使用し、室内環境を余すことなく画像データとして記録します。
この記録を長期的に継続する事により、付属園の先生方が「潜在的な知」として持っている、部屋の広さや形状、採光条件に対する家具や掲示の配置といったデザイン要素を顕在化するとともに、事例調査で集めた他園のデータとの比較を行う事により「子ども好適空間」実現のためのノウハウを明らかにしていきます。

自然科学分野の屋内外の活動における『子ども好適空間』の要素に関する研究

  • 研究代表者:宇都宮森和
  • 研究分担者:祝田学 長野八千代

子どもの「自然離れ」がしばしば話題になります。「子どもが自然に接する経験が著しく減っている」という調査結果も報告されています。子どもの自然離れは、なぜ起こるのでしょうか?
その要因として、私たちは「子どもを取り巻く空間」に注目しました。自然に触れることのできる空間が減少し、自然の中での親子のかかわりや、親子を受け入れる空間が不足しています。自然体験できる場や、自然科学の楽しさに触れる空間が用意されれば、きっと多くの親子がそこに飛び込んでくると考えたのです。
岡崎女子大学に「学校教育コース」が開設されて2年目になりました。小学校の先生を目指す学生が、小学生や親子と直接関わりながら学ぶ機会が必要になります。
そこで、小学生を対象にした「親と子のネイチャーウォッチング」(愛知教育文化振興会との共催、年間5回開催)を学生が準備・運営したり、夏休み科学相談室(5回実施)を開設し、科学に関する疑問や関心事、夏休みの自由研究の相談に対応したりする場を計画、実践することにしました。
これらの場は、参加する子どもたちが自然や科学に親しむ空間になるとともに、学生にとっても、自然や科学に対する子どもの見方・考え方を学ぶことのできる空間になるはずです。

子ども好適空間事例調査

  • 研究代表者:佐善圭
  • 研究分担者:滝沢ほだか 野田美樹 町田由徳

本研究は「子ども好適空間研究拠点」の実現に向け、モデルケースとされる幼稚園、保育所等の屋内外の先行的事例を調査し、収集したデータ、画像等をアーカイブすることを目的としています。
調査方法は、数名の教員がグループとなり、モデルケース園をそれぞれの専門的な視点から(保育分野、音楽分野、造形分野、体育分野、心理分野、デザイン分野等)現地調査することで現状を把握し、収集したデータを蓄積し、結果を多角的に分析します。
また、国内の特徴的な園舎建築を選び出し、その中で子どもが健やかに成長する好適な空間事例の特徴や効果を挙げながら、子どもの成育環境を総合的に調査します。
専門分野の異なる教員の視点から様々な事例を調査することで、子ども好適空間の現状を把握し、これを参考として本学に子ども好適空間の理念を実現する「hyggeLab」の建設へと繋げます。

好適空間を構成する要素

屋外環境における好適空間と保育の質の研究

  • 研究代表者:山下 晋
  • 研究分担者:小原 倫子、米窪 洋介、渡部 努、町田 由徳

12/9(日)大学内で「冒険遊び場」を開催しました。この冒険遊び場は、子どもたちの「やってみたい!」気持ちと「こうしてみよう!」という発想を大切にすることをコンセプトにしています。
肌寒い日でしたが、60組の親子に参加していただき、滑り台や壁登り、車輪あそび、制作、焚き火で焼き芋など…、夢中になって楽しんで遊んでいる姿が多く見られました。また、参加した学生からは「子どもができなくて、何度もチャレンジする姿や、さっきまで泣いていたのにもう一度取り組んでいる様子が見られた」「できなかったことができるようになるなど、短い時間でも成長する姿を見ることができた。」と感想があり、保育者を目指す学生にとっても良い経験となりました。
今後も調査・研究を進め冒険遊び場を発展させていきたいと考えています。

医療空間、商空間における子ども好適空間の研究

  • 研究代表者:黒野伸子
  • 研究分担者:滝沢ほだか 町田由徳

子どもたちの「安全・安心が確保」された医療機関(病院やクリニックのこと。以下「医療機関」と記します)とは、どのような空間が最も適しているのでしょうか。今までの研究成果を調べ、多方面からの改善事例が集まっています。今後、順次紹介していく予定です。
「医療」というのは特殊な環境です。プレイルームが設置されている病院も多いですが、遊び場であっても、点滴棒が持ち込まれることもありますし、マスクや消毒液等の感染防止用品も置かなければなりません。冷たい印象を持つ医療用具は子どもの恐怖心や不快感を大きくしてしまい、その上、子どもたちの好奇心まで奪ってしまいます。医療機関の待合室も同じことがいえます。
子どもの恐怖を軽減することが、医療機関の最も大きな課題といえるでしょう。医療機関という限られた空間に、好奇心を持てる遊び環境を作り上げていくには、多くの工夫が必要です。そこで、福祉先進国であるデンマークの医療環境に学び、子どもの目線に立った医療環境の実際をいくつかご紹介します。
今後、「hygge」は、医療環境においても有用であると考え、「医療現場における子ども好適空間」とは何かについて解明し、多くの医療機関に還元していきたいと考えています。また、この結果を商業空間にも応用し、「医療空間・商空間における子ども好適空間」とは何かを解明したいと考えています。

子どもの音環境の研究

  • 研究代表者:滝沢ほだか
  • 研究分担者:北浦恒人 平尾憲嗣

私達が生活している日常空間には、たくさんの音があふれています。
生活音、環境音、おしゃべりの声や音楽…聞こえてくる音にはたくさんの種類があり、その中には「騒音」といわれる不快に感じる音も含まれています。
室内で聞こえる音について、デンマークやオーストリア、イギリスには具体的な数値で法的な規制ありますが、日本の保育所や幼稚園には、そのような規制はありません。その一方、日本の保育室では、地下鉄の車内や騒々しい工場、カラオケルームのスピーカー1m前と同じくらいの音が出ているという研究結果もあります。
本研究では、子どもを取り巻く音環境について、子ども好適空間の基礎となる音環境とはどのようなものなのか、下記の4点から明らかにしていきます。

1. 付属幼稚園や市内の保育所、病院や薬局における音環境の調査を行う
2. 子どもの空間における音環境について、音の基準のあるデンマークで海外事例について調査を行う
3. 1や2で得られた知見をもとに、保育現場や医療機関の音環境について改善と評価を行う
4. 子ども好適空間を構成する音環境について、基準を策定する

幼稚園における絵本空間の研究

  • 研究代表者:鈴木穂波

幼稚園において絵本の必要性は認識されていても、「絵本空間」としてとらえた場合は十分に意識されていないのではないでしょうか。
教室の一角に絵本が置いてあるだけでなく、子どもが絵本を手に取ったり、読んでもらったりする空間そのものの在り方を捉えていく必要があります。本研究は、幼稚園における絵本空間の在り方を、先進的な幼稚園の絵本美術館・絵本館から探っていきます。
今回視察する幼稚園の絵本美術館や絵本館は、いずれも空間デザインという視点から著名な建築家により建設されており、一般的には実現が難しいものです。しかし、これらの幼稚園の子どもの利用に特化して作られた絵本空間の背景にある理念や概念は、空間や予算に制限のあるそれぞれの幼稚園においても応用できると考えられます。幼稚園における絵本空間の理想的な在り方を踏まえたうえで、今後実際に、限られた空間や予算内においてどのような工夫が行えるのかの検討へもつながる研究を目指します。

幼児期における感受性と表現力を養う保育空間の研究

  • 研究代表者:米窪洋介
  • 研究分担者:平尾憲嗣

本研究の担当者は、イタリアのレッジョ・エミリア(世界で最も優れた学校10選の一つ)の視察を通し、保育空間の構築、多彩な表現方法について、音楽と造形が組み合わされた環境や教材(あそび道具等)が、幼児期の子どもの感受性や表現力を育むことに影響を与えることを調査したことで理解を深めてきました。
それを踏まえて、新たな教材を開発し、保育空間との関連性を研究することで、子ども達の表現活動と空間との関係性が明らかになると期待しています。また、現在、保育者養成校における「表現」領域を扱う授業科目では、教科区分が撤廃され、各分野(音楽・造形)の垣根を越えて、相互に関連性を持った表現の捉え方や表現方法について、指導内容が見直されてきており、表現に関連する授業において、新たな指導内容の検討が必要とされています。
そこで、本研究で開発した教材を実践的な子どもの遊び道具として付属幼稚園等に設置し、聴覚や触覚の感覚による子どもの創造的な遊びについて、子どもの様子を基に調査、研究を進め、そこで得られた様々な表現方法を学生に紹介し、学生が実践することで、保育者養成校における表現領域の指導内容を充実させていくことを目的としています。

子ども好適空間の普及のための研究

子どものための空間、プロダクトのデザインとビジネス化の研究

  • 研究代表者:町田由徳

本研究では現在、「子どもの安全」を確保するためのデザインに焦点を当てており、ユニバーサル・デザインやキッズ・デザインの先行事例を調査して乳幼児の事故を防ぎ、安全を確保する製品の研究を進めています。
先行事例を調査した結果、子どもの安全が確保されている空間を実現するためには、保育に従事する方が安全な環境を整備するのみではなく、子どもならではの発想や行動特性を理解した上で、子どもの危険を防ぐための空間や製品のデザインを構想することの必要性が明らかとなりました。そこで、乳幼児が自ら危険な環境を忌避し、安全を確保するための製品として「チャイルドレジスタンスステッカー」のデザイン開発に現在取り組んでいます。
他にも農産品や石製品を開発している企業等と協議し、「子ども好適空間」の理念を実現する新たな製品開発に向けて、開発とビジネス化の模索をしています。
「子ども好適空間」の原則、理念を体現した製品や空間を実現し、より多くの場所で「子ども好適空間」が実現させることが本研究の目指す到達点です。

PAGE TOP